雪の夜に




なんだってこんなことになったのか。
ヤバイヤマに首をつっこんだ挙句、
逃げる途中で本当に「山」の方に分け入る羽目になった。

追っ手は撒けてもこれじゃなぁ……。
おまけに愛用の原チャが壊されて、視界は吹雪いてきたせいで最悪。
山の天気は変わりやすいとはよく言ったもんだ。
方向感覚はあっても、土地勘の無い場所で、冬の山という最悪のコンボ。
で、第一山人発見かと思えば。

「……よくよく会うよね。俺らって。何、副長さんも登山?で、うっかり遭難ってか」
一応コートにブーツの重装備だが、
吹雪の所為でぐっしょり濡れてしまっているのは同じ立場の、黒髪の目つきの悪い男。
少し雪の積もったコートのフードをきちんと被っているのがやけに似合っておかしかった。
「…安心しろ、ザキと連絡はとった」
土方はそういうと俺の腕と、腹部に視線をやった。
バレたか?
「…仮に俺がぶっ倒れても救援信号を辿れる。
俺の携帯から定期連絡が途絶えた場合、山崎が連絡して救助班が来る手筈だ」
「の割にもう夜になりそうなんですけど」
「この吹雪で手間取ってるだけだ。遅くとも朝には助かる。
どちらにせよ今下手に動くよりロッジで一夜明かしたほうが賢明だ」
流石に特殊部隊でこういった不測の事態に慣れているのか、淡々とそれだけ言うと辺りを見渡す。
「この付近なんだが…」
「ロッジならある筈だよ。俺もそこ目指してたし」
万が一を考えて、木に登って高い位置から小屋を探しておいたのだ。
土方は地図も持参しているという周到さだったが、
軽く遭難しているのは同じだからか、言葉少なだ。
総悟め、と一度ポツリと零した。
ま、大体の事情は飲み込めた。
いい加減弟分に甘いのを自覚しねェと命に関わる気がするが、余計な世話だろう。
人間なんて、びっくりするようなきっかけで結構簡単にくたばっちまうんだって、
あのサディスティック星の王子様はわからないんかねェ?

結局、視界が完全に駄目になる前に何とか、目当ての小屋には辿り着いた。




「ああああ寒ィ!!!」
「そりゃ雪振ってるうえに濡れてるからな」
「なんでそんな冷静なのお宅」
「…騒ぐと消耗するぞ」

小屋の中は毛布と、火を起こす為の燃料、鍋があった。
オフシーズンのせいか残念ながら食料はたいしたものが無かったが、特に食欲は湧かない。
土方もそうらしく、だが雪山の鉄則として水だけは互いに少し飲んだ。
寒くとも水分だけは補給しなければならない。

土方が愛用のマヨネーズ型のライターで火をつけると、
小さな音を立て、火種が燃える。
それから古新聞、徐々におが屑のようなものを燃やし、薪に上手く火をつける。
「サバイバル、上手いじゃん」
「昔はよくやった。テメェだってそうだろ」
よくどころか、あの頃は毎日が野営のようなものだった。
俺は曖昧に笑うと火に手を翳す。
「あったまるわ」
だが、正直歯の根は噛みあっていない。
服が濡れて全身の体温が奪われかけている。
「…ガキどもとキャンプ行ってたっけな」
空気を読んだのか、土方は話題を変えるようにそう言うと、ちょっと怒ったように片眉をあげた。
「瑠璃丸、潰しやがって」
「ロリ丸は俺の所為じゃないでしょ、っていうかあれ、大丈夫だったの」
「ん……まぁ」
土方は言葉を濁した。
将軍様はまぁ話のわかる男だが何らかの罰はあったのかもしれない。
カブトムシだかを巡っての夏の思い出が、雪の山なのに昨日のことのようでおかしかった。
こうやって二人きりで火を囲むようになるなんてあの頃の俺は予想しただろうか。
俺の様子を横目で確認した後、土方が外から持ってきた雪の入った鍋を火にかけた。
一気にじゅわーと音を立て雪が溶け始め、蒸気で小屋の中が少しずつだがあたたまる。
空気が乾燥する冬、湿度が高いことは大事なことだと知っているのだろう。


それから土方はコートを脱いだ。
コートの中も湿っているのか、色濃く重たげだ。
どうするのかと思えば、服まで躊躇せず脱ぎ捨て、
そのまま無造作に下着まで取り払うと、恥じらいすら感じさせない自然な動きで少し濡れたような色合いの髪を振った。
「…思い切りの良いことで」
…しっかし綺麗な身体してるね。
すっと伸びた背から、なだらかな双丘、長い足までが恐ろしく白く、火の灯りに照らされて
輝いて艶やかでさえある。
色男は全裸でも色男ってか、チクショウめ。
ていうか、いいケツの形だよな。無駄な肉が何にも無ェのに、骨っぽくは無くてこう、
全体的にきゅっとしてて。手のひらに収まるサイズ。
大体足が長くて日焼けしてなくて白くて超綺麗だし。
もちっとこう、さぁ、脛毛とか色々、ちょっとくらい無いわけ?

こちらの視線を気に留めず、丁度壁から飛び出た釘に服を引っ掛け、
乾かすのだろう、そのまま吊るしている。
その後、流石に寒いのか毛布をガウンのように肩からかけた。
なだらかな背が隠されて、ち、勿体無いと考えていたら。
振り向かれてぎくりとする。
同じ男の白い裸体をじっと見つめていたことが、覗きのようでなんだかバツが悪い。
大体、前を向かれると、そっちは毛布で隠れていないから見えちまう。
股間に目をやるのが気まずすぎる。
色、綺麗で薄いね。見た目の割に遊んでないのかも。

「お前も脱げ、濡れたままだと風邪を引くぞ」
「イヤーン、えっちぃ」
やっぱりそうきたか。
精一杯のごまかしも通じない。
動きが鈍いことは土方にとっくにばれていただろう。
というか、こいつ一人で無理に下山したって良かったんだ。
そうやって、何だかんだで…やさしいから、俺と一夜明かす羽目になる。
が、勿論、俺だって悪いと思ってるし、一人きりはちょっと切ないから、ありがたかったりはする。


軽い溜息を吐くと土方はそっと衣服に手をかけた。
「脱がすぞ」
「あら積極的」

先に脱いだのは俺の抵抗を失くす為だろうか。
とすればどんだけ気のつく奴なのか。
普段、あんなにチンピラで偉そうにしてるくせによ。
つらつらと考えていたが、土方の手つきは丁寧そのものだ。
「びしょ濡れになっちまったな……」
腕に怪我をしてる、とは言ってあったが、そっちはただの打撲だ。
そっと袖を抜かれて、あざになっている箇所に土方の眼が一瞬止まったが、何食わぬ顔で引き抜く。
「やっぱりな……」
つい、と指先で傷の周辺を辿られ、誤魔化せるはずもないので俺は白状する。
「うん、ちっとお前に会う前に、な。まぁ、血は止まってるよ」
横腹を思い切り切り裂かれたような紅い切り口からは、血が噴出すはずだったが、
この寒さの所為かさほどではない。
血だらけの地面は今頃雪で覆われているだろうか、などと馬鹿なことを考えてみる。
「寒い所為で出血が止まってたんだな…一度消毒して、止血するぞ」
身体が極端に冷えたままの止血は血流の関係で組織を壊死させるおそれもあったが、
これだけ温かければ平気だろう。
俺も黙って頷く。
小屋の中で登山者用にだろう、用意してあった救急箱には簡素なものしか無かったが、
消毒薬とガーゼ、長めの包帯があったのは助かった。
土方は俺のために手当てを施し、
毛布を俺の身体にかけた。
ぶるりと震える俺に土方は困ったように辺りを見渡す。
毛布は残念ながら土方が羽織ってるものと、俺にかけた2枚だけだ。
「あー頭あちぃ…」
「傷の所為で熱が上がったんだろ」
「のワリには寒いし…」
「…身体が冷え切ってるんだな、何だかんだで出血量も結構なもんだったみてぇだからな」
テメェ、顔色が良くない、そう淡々と言いながら土方は火の様子を見て、
また溶けかけた雪を鍋に入れ蒸気を出させた。
カチカチと寒さで情けなく歯を鳴らしながら土方の様子をしばらく見ていたが、
突然、溜息を吐いたので不安になる。
つい目で追ってしまった俺に構うことなく、何か、決意したような顔をすると。
「非常事態だ、許せ」
義務的に言うと、ばさっと自分の分の毛布まで俺の上にかけた。
「へ?うわ、ちょ……」
そのまま、混乱する俺の背後から毛布の中へ滑り込んでくる。
それから、後ろから俺を抱きかかえるように、
いや、体格が同じだから抱きついているようにも見える体勢をとった。
「我慢しろ」
や、我慢て。
固まる俺の身体を、熱がじんわりと伝わってくる。
抱っこされてるおかげですっげぇ、あったけー。
ということはおそらく、土方は冷たくて仕方ないだろう。
大体、こいつはきちんと重装備で、俺と違って身体はしっかりと保護していたのに。
「…悪ィ」
「何がだ」
「いや……」
「ちったぁあったかいだろ」
何食わぬ声で、土方は剥き出しの柔らかな皮膚を沿わせてくる。
俺の身体に熱を移そうとするかのように、控えめなのに、しっかりと。
布越しでない体温が縋りつきたいくらいに温かい。
向かい合って抱き合いたい、
と信じられない考えが、しかし頭にすぐに浮かんだ。

だが。
こうやって抱っこしてもらってるのも、悪くねェな……
女にだって、抱いてやることはあっても抱かれることは無かった。
ガキが保護者に抱かれるのはこういう感じなのかもしれねェ。
優しささえ感じられる柔らかな抱擁を与えながら、
土方は時折、包帯が厚く巻かれた俺の腹の傷の周辺を無意識なのかそっと撫でた。
慰撫するような仕草にくらくらくる。
どんだけ色男なんじゃコイツは。
女にもこうしてんのかね。
などと考えてみたが、反発というか、モテ男めという感じの感覚は湧かない。
こいつ、あんまり女の影ないよな。
薄幸を絵に描いたような、あの綺麗で気の毒な女とのことは別として。
お妙の店でだって、こいつが来ると女のテンションがヤバイくらいだって聞いたし。
組のムサい野郎共の中じゃ別格だよね。
こいつって、露悪的だし嫌われてるって思い込んでるけど、多分皆血眼で動いてるよな…
ていうか、誰にでもこういうことすんのかな…
気を逸らしたくて、関係ないことばかり考えようとしてみる。

が、駄目だった。

「……ハァ」
土方の抑えた甘い息が首筋にかかる。
時折吐く溜息に似た悩ましい吐息が、
他意はないのだとわかっていても、いやわかっているからこそ、たまらなくなって。

クソ、なんつーこった。
人間て、なんて単純なんだろう。
正面から抱き合っていたらばれていたかもしれない。
下半身の血流がよくなっている自分に眩暈を覚えながら、
自分を抱える土方の性器を意識してしまえばもう、眠るどころではなかった。
元々些細な怪我で参るようなヤワな身体はしていないつもりだ。
大袈裟だよ土方、や、まぁ心配してくれるってのはこそばゆいけど。

丁度、俺のケツのあたりだよね、土方のあれ。
でも全然固くねェよな、あれ、なんで俺ちょっと残念なの?
普通野郎のチンコ充てられたら嫌じゃない?
なんでむしろ固くなっててほしいとか思っちゃってるの。
足も全身も毛が薄いのね、肌しっとりねとか思っちゃってるの。
一瞬見えたチンコ、超綺麗な色だったとか考えてるわけ。
あれは同じ男の持ち物にするには勿体無いよね。
なんで脳裏に焼きついてるわけ。
銀さんソッチの気は無いはずなんだよ。
いや、ないないない。
うん、それはないよ、うん。
ないないない。

ふいに、土方の腕が持ち上がり、後ろ側から手が俺の額にそえられた。
「ッ…」
ひやりとした感触以上に、接触に心臓が跳ねた。
「悪い、驚かせて……テメェ、熱上がったか?」
指先をぴくりとはねさせた土方は、口調こそ荒いがその声は静かで、いたわる響きさえ帯びている。
いつもいがみ合ってばかりの俺にさえこうなんだ、
怪我人や病人には優しいの典型の男だね。
誰にでも、きっとこうなんだよ。
俺の傷を撫でてくれるのも、俺を抱きしめてくれるのも、声が優しいのも、全部。
純粋に自分の身を案じているであろう土方にこんなことを考えるなんて最低だ。
頭ではわかっていたが身体の反応は止められない。

このまま、一気に向きを変えて、覆いかぶさってそれで。
それで、って。
どうするつもりだ。
俺は頭を振った。

俺の震えをどう解釈したのだろうか。
「……大丈夫だ、もう少しすりゃ楽になる」
ゆっくりと囁いてくる。
土方の声がどこか遠くて、でも、天国から響いてくるみたいな、どうしようもなく焦がれてしまうような
声に感じられる。

…もう、駄目だ。
俺は素直にその声に向き直った。
「悪い、ちょっと」
身じろぎしながら、何とか身体を反転させた俺に、土方は慌てる。
「な、なに……」
困惑から、じわじわと土方の表情が驚きに変わり、さっと頬が朱色に染まった。
白い肌が綺麗に血の色を帯びて、思わずむしゃぶりつきたいくらいだ。
「テメェ、た、」
勃起してるよ。
悪いかよ。
お前がエロすぎんだっての!!!
やけになって叫びそうになる。
そんな、何も知らない子猫みてェな目すんじゃねェよ。
おまえ、真選組の副長様だろーが。いつもの威勢はどうしたよ。
何勃起してんだ変態とでも言って殴り飛ばせよ、正当防衛だ。
なんでおずおずするの。
やめてよ、そういうの。さらにエレクトするんですけど。
無自覚か、どうせそうだよな!
おまえ、わかっててやってるなら魔性の生き物だよ。
で、それなら俺は助かるのに。
絶対ありえねェだろうけどなチクショウ!!!
ていうか今なら自覚があっても勃つ自信があるけどな!!!

「な、やめろよ…そう、いうの……」
困惑しきった土方は自分でも何を言って良いのかわからないらしく、
覆いかぶさった俺の肩に距離を取るように手を置き、唇を震わせる。
目の奥は困惑に揺れて、怯えてさえいる。
俺の反応はそんな怖いかよ!
ぐりっと押し当ててやると土方がか細い悲鳴を上げた。
「ひゃ、な……に、すんだよ……」
段々、嗜虐的な気分になってくる。ああ、最低の俺。
「押し当ててんですけど」
「ばっかやろ……やめ、やめろよ!!」
さらにぐいぐいと押し当ててやれば土方の声は殆ど泣き声になる。
「やだ、やめ、あ……!」
ふいに、性器が擦れ合ったせいで土方の声が色を帯びる。


正直、俺は目前の整った顔にキスがしたかった。
どうしようもなく欲情していて、同時にどうしようもなく胸が痛かった。
こんな状況で気付いて、殆ど生殺しだ。
土方の優しさにつけこむような真似をすれば、きっと後悔する。
狭い毛布の中で逃げ場を失くした土方は
怪我人相手と思っているのか、暴れようにも暴れられないといった体で困惑しきっている。
甘いよ。超甘い。

「や、待てって。テメェ、」
待つかよ。
強引に唇を押し当て、顎を押さえて口を開かせた。
あわせた唇から、差し入れた舌から、あったけぇ感じが流れ込んでくる。
「ん、っ……はぁ……ぅ」
ぴちゃりと時折舌の音がして、息継ぎの主導権を俺に握られている所為で苦しそうに、でも酷く艶やかな顔で、土方は喘ぐ。
その土方の控えめな息遣いにますます頭の中がかっと燃え上がる。
火がついたみてぇに頭の中が熱くて、冷たかったはずの身体は熱で覆われていくようだった。
やべ…止まんねェ……
「なぁ…土方、」
「な、んだよ……ぅ」
「なんで俺をあっためてくれたの」
「なんでって……」
「俺が好きだからじゃねェの……こういうこと、誰にでもするのかよ」
土方は抵抗を一瞬やめ、まじまじと俺の顔を見る。
次の瞬間には、すぐに視線をそらす。
俺の目がよっぽどギラギラしてたんだろうか。
「誰にでもって……」
恥じらうようなばら色の頬にくらくらくる。
目元までが薄っすら赤く染まって、
見れば見るほど完璧に綺麗に整った顔のくせに、可愛げまであるとか反則じゃね?
「……わかんねェよ……そんなの」
土方は小さく零すと、それでも俺を押しのけようと無駄な足掻きを繰り返す。

「俺はさ、ていうか男はだけどさ、絶対勘違いするね、こんなことされりゃ」
俺は土方に責任を転嫁するような最悪の口調で騙しにかかる。
「けど…」
「けど?」
「テメェを置いていったら寝覚めが悪ィし、別にテメェのためとかそんなんじゃ、ねェ、し…」
段々弱弱しくなる語尾に俺はまた眩暈を覚える。
「気に触ったなら、謝る。けど、これは非常事態で、別にいやがらせとかじゃ…」

は?

「いやがらせ?」
「だから、違うって…別に笑おうとか思ってねェよ…身の危険に晒されりゃ、男なんてみんな、その、
あれが、そうなるのは普通だし、ウチは命のやりとりが多いから、若い隊士にゃよくあることで……」

土方は俺の驚愕を他所に、ぽつぽつと話し続ける。
「別に、驚きゃしねェって。混乱して、もっと、情けなく、や、別に情けねェとは思わねェけど、
泣きながら俺に抱きつこうとする奴もいるし、そういうの慣れてるし、頭の中が滅茶苦茶になってるから、
俺になんだか色々、言うのもわかるし…仲間は家族みてェなもんだから……」

「土方、おまえ、こういうのよくある、の………?」
恐る恐る尋ねる俺に、土方は何を勘違いしたのか、勢いこんで首を縦に振る。
「あ、あぁ、よくある。だからテメェが気にするこたねェよ!
俺みてぇに嫌な上司に見境無く抱きついたりくっついたりしようとするんだぜ?
テメェの身体が俺に、その、…ったわけじゃ、ねェことくらいわかるから大丈夫だ………」
俺は、正直もう、頭の中が限界だった。
股間も限界だった。
何がってもう、すべてが。
大丈夫なわけないだろうが。
こいつなんなの。
特別天然記念物級じゃね。
国家をあげて保護するべきじゃね。
少なくともあんな危険地帯に住まわせておくなんて犯罪じゃね?
犯罪を抑止する側が誘発してるよ絶対。
なんでそう可愛い顔するの。
「土方、おまえさ…」
俺の声の震えに土方はまたさらに記念物級の勘違いをする。
「ばか、やっぱり辛いんだろ?いいからじっとしてろよ。な?」
くるりと丸まっている毛布の中は熱でいっぱいで、少なくとも寒くなんか無い。
なのに土方は一層俺が凍えていると思ったのか、不安げに辺りを見渡す。
「これ以上あっためる方法もねェし……我慢してくれ」
や、我慢なら別のところでいっぱいしてますが。

「寝ちまえよ…大丈夫、俺が起きてるから、朝になったら服も乾くし……」

俺は毒気を完全に抜かれた。
完敗だった。
惚れているとわかった相手が、こんなにも、天然記念物並みのエロさと鈍さを持っていたら、
男はどうしたらいいのだろうか。
これ以上やっても、多分、この初心でエロい子に不埒なマネをする野郎共と同列に扱われちまうだろう。
そうなれば、今後一生その位置で甘んじることになる。
そんな馬鹿げた話があって堪るか。
耐えろ、俺。

その夜。
駆け出しの修行僧の気分を味わいながら、
俺は念仏か何か唱える心持で頭の中を無理やり真っ白にして、
土方の柔らかい身体と、甘い匂いと、己の腐った煩悩とひたすらに無意味な格闘をし続けた。
男はパーマが失敗したときだけじゃなく、
こういうときにも泣いてもいいんじゃないかな、と俺はちょっと思った。
でも、多分泣いたら土方は更なる勘違いをして、俺はそうなったら理性を保つ自信が無い。

目を閉じてぶつぶつ言う俺をひたすら案じながら、
土方は俺を正面から抱きしめたまま、時折俺の頭をぽんぽんと優しくたたき、
大丈夫、と静かに繰り返した。

雪の吹雪く音は、何時の間にかやんでいた。



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