Dog Save The Queen!








極彩色の悪夢の中で俺はいつだって退屈で窒息しそう。

優等生の土方君をからかってやろうとしたのはほんの気紛れ。
大体俺は他人に興味なんかない。
銀時のクソヤロウが気に入ってるっていうのが面白かった。
ヅラが時々話題にあげるのも。
アイツも同じ優等生仲間だからか気が合うのか。
俺にしてみりゃあの電波と気の合うやからがいるとは思えねェが。
ま、理由なんか跡付けだ。
悪趣味を自負してる俺はああいうお綺麗な奴を甚振んのが好きなんだ。


丁度授業中だってのに人気のない裏庭をふらふら一人で歩いていた土方をラッキーとばかりに
いきなり引き倒して乗っかる。
思い立ったら何とやら。
「な、ヤろーぜ?」
マウントとっちまえばコッチのもん。
押さえ込んだ土方の身体はどっちかってーと華奢だが、筋肉のつきかたからして
よく鍛えられてる。
運動でもしてんのか?
手首をにやっと笑って掴む。
「ネコだろオマエ?銀時が可愛がってる」
押し倒されたことに頭がついてきていないのか、土方は少し切れ上がったデカイ眼を見開いている。
可愛いねェ。
とか思っていたら瞬時に冷える空気。
殆ど反射で蹴り上げられた。
浮いた腰に手を差し込んでべたっとケツ撫でるとさらにキレだす。
撫でた拍子に土方のウォレットチェーンが手に引っかかって痛ェ。
腰をあげて下半身のバネだけで俺をどかして起き上がろうとしてくる。
暴れんな。

あ、コイツ喧嘩慣れしてやがる。

無言で凄ェ抵抗。
マウント取られてるくせにちっとも大人しくない。
瞳孔開ききったキチガイじみた表情で正確無比に急所狙い。
かわすとさらに二度連続の蹴り。一発は急所かすった。
足癖悪ィ。
慌てて足を押さえ込んで横っ面をひっぱたく。
一応ネコ扱いしてやろうと思ってるから平手。
これから可愛がる相手をただの暴力で嬲るのは正直萎えちまう。
だがぱしんと軽く鳴る頬に見向きもしないでまた殴りかかってきやがる。
足が使えなきゃすぐ手がでるかよ。
一発喰らったから俺も腹が立って返しに口元を殴る。
がつんと歯が当たって俺の方もちっと衝撃。
「…ぐッ!」
色気のねェ呻き声が漏れた。
両手を押さえるとぎりぎり押し返そうとしてきやがる。
おいキスもできねーだろ。
「大人しくしろや」
…余計暴れ方酷くなるし。
また一発重めにぶん殴ってやる。
ガッと色気の皆無な音が響く。
ウエイトかけたせいで脳にキたのか土方の眼が一瞬揺らぐ。
そのくせ噛み付こうとしてきやがった。
ますます動物みてぇ。
遮二無二暴れられてミスって片手が外れる。
拍子に土方の顔に爪が掠って線を描く。
「オマエ、顔大事にしろってー、の」
せっかくすげぇ可愛いのに。
って、聞きやしねェし。
そのまま殴りかかってきやがるし。
意外と根性あんなコイツ。
口の端が紅い。
あ、コイツさっきので口切ったな。
何かエロイ。
って、あッぶね!!
股間握りつぶされかけた。
それ反則じゃね?
抗議しようとするが射殺しそうに睨まれる。
おい。おいおいおいコイツ怖ェよマジで。
銀時はこんなんにデレデレして可愛いとかって見惚れてられるのか頭おかしいなやっぱアイツ。
ああでもチクショウ凄ェ好み。
間近でみて確信。
コイツ凄ェ別嬪さん。
どこもかしこも柔くてうまそう。
肌綺麗だし。
このクチに咥えさせたらくるもんあんな。
…喰い千切られそーだけど。

気を取られたらごんと鈍い音と後頭部に重い衝撃。
触れた頭にぬるっと生暖かい感触がした。
「あー…いってェ…」
普通コンクリで殴るかァ?
死んだらどーすんだよ。
ドカッと横倒しにされて這い上がった土方はよろよろ立ち上がる。
片手に持ったままだったコンクリ片を無造作に捨てる。
どこでんなもん拾ったよ?
見上げると土方は張られた頬と口元をぐいっと乱雑に拭った。
ぺっと吐き出された血反吐交じりの液体がなんだか卑猥。
口元をべろりと舌が無意識みてェになぞって。
にいっと笑うと土方は座り込んでた俺の股間めがけて踵を振り下ろす。
間一髪避けると舌打ち。
「トチ狂って男に使おうってんだ、あっても無くてもかわんねーだろ?よこせよ。潰してやる」
おいおいおいおい。
凶悪そのものな顔で吐き捨てられる。
やっとまともにクチききゃそれか?
なのに。
好みのツラだからか正直チビっちまいそうなくれェ興奮した。
俺は悪趣味だなやっぱ。
あー今日は諦めるか。






ふっとびそうに風の強い日に屋上で平気で本を読む土方は頭がやっぱちょっとおかしいのかもしれねェ。
「何読んでんだ?」
「詩」
空色のカバー、文庫サイズの小さな本から目を逸らさず応える。
律儀な奴。
「面白ェ?」
「いや…」
面白くねェのに読むんかよ?
っていうか。
「お前凄ェな土方」
名前を呼ぶと嫌そうに土方は整った眉をひそめた。
この間あんなことがあったのに普通に話に応じてるとかどーよ。
怒られないんでまじまじと横顔を見る。
長い睫が白い肌に影を落としてる。
手足はすらりとしていて健康的。
あーコイツやっぱ凄ェ好み。
顔とか身体とか全部エロイ。
俺より若干背が高いのが難点ちゃ難点か。
しかも簡単には押し倒させてくれそうにねェ。
この間はマジで命がけだった。
タマとられかけた。ってーか握り潰されかけた?
でも逆にそれが興奮した。こんくれぇ活きのいい奴じゃなきゃ長く楽しめねェ。
「なぁ?俺ら付き合わねェ?銀時とはなんでもねーんだろ?」
「騒ぐな強姦魔」
本から視線は外さず吐き捨てるようにそれだけ言う。
「未遂だろーが」
「ハッ、たりめーだろ。俺のお陰で本物の犯罪者にならずにすんだんだ感謝しろ」
読み終わったのか飽きたのか、本をパンツのポケットに無造作に仕舞う。
土方は大股で数歩歩くとガンと錆付いた柵を蹴飛ばした。
「イラついてんなァ」
「確かめてんだ」
以外にも普通に返事が返ってきて驚く。
「何を」
「どっか飛んでいかねーかって」
そういうと土方は柵に踵だけ寄りかかって煙草を取り出して吸い出した。
絡んでこない。
さっきの答え意味不明。
「煙草吸うんかよォ?」
優等生の癖に。
「……まァな」
ためしに近づいて手を差し出す。
土方は俺を横目で見て、
とんと片手でケースから器用に煙草を一本抜き出すと普通によこしてくる。
「悪ィ」
ありがたく頂戴すると火を探そうとして、
何の気なしに土方を見た。
すっと形のいい唇から貫き去られた煙草を目で追う。
挟んだ指が流れるように煙草を加えた俺の口元に運ばれた。
「…ん」
ありがたく火をもらう。
別にライターくれぇ持ってたけど。
なんかせっかくだったから。
コイツ、なんかヤバイ。
ちょっとマジ嵌りそう。
「飛ぶってどこ」
「どっかとおく」
ヤバイ。
コイツ意外といっちゃってる?
だったら尚更好みだ。


二人で煙草を吸っていると扉のほうから音が近づく。
誰か命知らずが上って来てるのか。
俺がいるときにここに平気で来るのは銀時のヤローかヅラくらい。
が、あいつらの気配はわかる。
扉の向こうから現れたのは気配が無いくらいひっそりとした気配で名前も忘れたクラスの誰か。
「デートですか」
へらりと笑う地味な奴は来て早々、俺に目もくれず土方を見るなり言う。
意外と度胸ある。
そういやこの間この地味男が土方を迎えに来たんだった。
俺にビビってねェのに俺を視界に入れない人間は珍しい。
威嚇してんのか?
土方は面白くもなさそうに男を見る。
「踏むぞ」
「はいはい、靴紐ほどけかけてますよ」
いうなり地味男はしゃがんで土方の靴紐を結びだす。
向かい合っているのに結べる辺り器用。
「はいできた。コレ履いてくれたんですね」
えへ。
笑う地味男に溜息を吐いて土方はしゃがんで犬かなんかみてーに頭を撫でている。
「あぁ。気に入ってんだ」
なでなでなで。ホントそんな感じで撫でてやがる。
それから視線を落とす。

「探させて悪かった」
「いいえ」
「心配したか」
「少し。でもあなた強いし」
「帰るか」
「はいよ」
おいおいちょっと待て。
「なぁひじかた」
「あ?」
振り返った土方はやっぱり整って高慢なツラ。
「ソイツお前の何?」
「やまざき」
んだそれ。答えになってねーし。
お前が女王様なのはようっくわかったけどよ。
「じゃーな」
土方はガンガン音を立てながら荒っぽく階段を下りていった。
アイツぜってーふりむかねェ。
たまんねーな。
あーやりてぇ。






ときどき無性に何もかもが虚しくなる。
極彩色の悪夢の中で俺はいつだって吐きそう。
女の笑い声もただの馴れ合いも暴力も何もかもが結局虚しい。
昨日寝た女の臭いと絡まれてノシてやったクズどもが伸びている地面の上で俺はどうしようもなく虚しい。
しょうがないから上を見る。
でもそういうとき空は悪夢みてェにきっぱりと色づく。
天に唾なんか吐いたら降りかかるだけなんで勿論んなことはしねェ。
授業なんかもっと受ける気がしねェ。
屋上で強い風を受けてこのままふっとんでいっちまいてェと思って下手な歌を歌っている。
足元のスニーカーがさっきの喧嘩の名残の色をしていて不快。
ヅラが口煩く俺を探していたがうまくまいて逃げる。
アイツ俺のなんだよ。
銀時のヤロウははなから授業なんか聞いちゃいねェ。
なら出ない俺とどこが違うってんだ。
ノートなんかヅラか万斉が取るだろ?

この間売られた喧嘩の続きを校内で買う羽目になるとは思わなかった。

俺は苛立っていたからいつもよりよっぽど加減が出来なかった。
呼び止められたのが中庭で誰もいなかったのもよくなかった。
ギャラリーがいりゃあヅラか万斉辺りを呼ぶ。
そうすりゃウルセーからちったぁ加減したがそんな暇ないくらい早くカタがついた。
ていうか相手を半死状態にしたからだが。
捨て置いたが結局救急車が呼ばれる騒ぎになった(ようだ。見てないが)。
が、相手がビビってクチを割らなかったようなので特に咎められはしていない。
今のところ。
ま、多分大半の奴にバレてるだろーけど。
銀時が来てなきゃやったなァ俺、ってな。
アイツか俺が校内の暴力沙汰の半分を引き受けてるって自覚はある。一応。
自覚はあってもヅラがギャアギャアうるせーのはやっぱウルセーから避難するみてぇに屋上へ行く。
別に帰っても良かったがお仲間のお礼参りがあるなら迎え撃つ余裕くらいあった。
後に回すと面倒なんだ。
俺はすぐ忘れるし。
ヅラと一緒のときに絡まれると収集がつかねェ。
アイツは俺の手に余る。

寝転んでたら気配。
頭だけ起こしてみると長い足、目が上に行くと白い腕と顔と黒髪。
すぐわかる存在感で土方はすいすい泳ぐみてェに歩く。
長い足の先でなんか女モノに見える黒のスニーカーに水色の靴紐が通してあって意外。
いや、可愛いけどな。
なんとなく起き上がる。いや目線がそろわねェのが嫌いなんだ。
特にコイツ背、高いし。
「二十億光年の孤独」
「は?」
「この間の正確なこたえ」
「はァ?」
横に並んだ土方の綺麗な艶々髪を風が浚う。
舞い上がると生き物みてェですっげェ綺麗。
「オマエ弱ってるな」
土方はそう言うと片方いい加減に結ばれた靴紐をぷらぷらさせた。
土方は顔が良くてモテるくせにそのことにあんまり構わねェみてェで色々すっこ抜けてると気付いたのは最近。
何だかしらねェけど結局他人はコイツのあれこれを面倒みてやりたくなるみてェ。
でもオンナの世話焼きよりは、よく一緒にいる地味な野郎が細々動いてる。
変な形のライターとか持ってるし偏食で、宇宙旅行に行ったとかおかしな噂を否定しねェ。
時々首輪がついてたりする。
そんな土方はやっぱり自由で背後のフェンスにイタズラにもたれかかったり起き上がったりして遊ぶ。
それからちょいちょいっと土方は手をこまねいた。
動かない俺に土方はふうんと首を傾げると
「抱いていいか?」
俺の眼を斜めにじいっとみていきなりそう言う。
ちょっとビビって、でもコイツ、どう見てもタチじゃねェよなとか思って
とりあえず頷くとそのまま抱きしめられた。
俺の馬鹿馬鹿しい逡巡を吹き飛ばすように力強く。
隙間無く柔らかく疑いなく抱きしめられる。
頭の中の悲しみを洗いざらい告白してしまいたくなるような真摯な抱擁。
身動きできなくなる。
息も止まる。
灰色の世界に降り注いだ暖かなひかりのイメージ。

いつだったか俺が世界で唯一愛し信じ護り抜こうと誓った人が言ったこと。

自分よりも他人に優しくできる人だけが、本当の意味で優しい人だと私は昔知りました。
だから優しい人はとても厳しい目の色をしているのでしょうね。
そういうとその人は厳かに続けた。
愛するときと憎むときの顔が同じ人もいるのですから、愛するということは大変な困難なのでしょう。
高杉、お前の愛する人がお前の求めるようにお前を愛してはくれないとしたら。
それでもその愛が偽りでないとわかる日がきたら。
それこそ本当の意味で、その人を愛することができるのでしょうね。

あのひとのことばが何度も頭をまわるのは土方が何も言わないからだ。
何も言わないくせに優しいからだ。

「なぁ土方、やっぱ俺と付き合って」
言うと土方は俺を撫でた。
「今言うのはずりぃな」
「今つけこまなくていつすんだよ」
違いねぇ。
土方は喉で笑った。
「お前可愛い。弱ってて」
土方はそういうとまた俺を撫でた。
そうか。
「な?可愛いだろ俺。ならやらせて。付き合え。セックスしよーぜ」
「ばーか」
土方はまた喉の奥で笑うと俺に向かって倒れこんだ。
「…ッお、い」
「フン。どーだ」
土方はちょっと息を吐く。
「お前ヤルことしかねぇのかよ」
「いや、別にそういうわけじゃ、ねェけど」
そういうわけじゃねェ。
でもそんなん言ったらひかねェ?
「じゃ良いだろ。このままこのまま」
何か誤魔化された感じ。

ああでも土方がいい。
すごくいい。
弱ってるとヨワイんだと。可愛いなァコイツ。
甘い。マジ甘い。喰われるぜェ。
銀時の口車にそのうち乗っちまうんじゃねェか?
悪い大人に騙されんなよ。
あーマジ、マジで付き合ってくんねェかなコイツ。
見た目もすげぇ良いけど中身はもっと堪んねェ。
キスしたい。抱きたい。話したい。
可愛がりたい。
すっげぇ欲しい。

いま、時間とか全部とまれ。


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