おやすみなさい





「ん……」
世界がまわってる。
土方はそう考えたが、すぐ頭の中でソレを打ち消した。
くらくらするが、気のせいだろう。
今日は軍議の後、会合がある。
片付けなければならない書類は山積している。
「ハァ………」
頬も熱かったが、動けないほどではない。
働かなくては。


「副長、あの」
「なんだ」
「お顔の色がすぐれないんですが…」
「気のせいだろ」
「や、どう考えても顔色悪いっすよ」

ひらりと手を振った土方に部下は黙った。
「わかった。これを片付けたら少し休む」
上下関係が強固な職場で、上司にそう言われれば頷くしかない。

土方が休むといって休んだことなど無い。
決裁をもらうため、あるいは報告の為、
かわるがわる部屋を訪れ、口々に体調を慮る部下をひらひらと追い払いながら、
土方は書類を片付けていく。

「文字が、踊ってるな……」
ここにきて流石に、自信の体調の悪化に思い至ったが。
「あと少しで終わる」
押し切ってしまえると判断し、思考を急速回転させた。

任務完了の報告のために入室した山崎の、劈くような悲鳴が響いたのは5分後。

「………あれ?」
どうしてこうなっているんだろう。
たしか、自分は書類を片付けていて。
今は夜だったか。
横になっている不思議に、ぱちぱちと瞬きした後、土方は起き上がった。
くらりと地面が揺れて、頭の芯が熱かった。

「あ!副長、駄目ですって起きちゃ!!!」
かけられた声が大きすぎて。またぐわん、と視界は揺れて。
堕ちた。






団子屋の店先で相変わらずくつろいでいる沖田に軽い口調で銀時は話しかけた。
「あれ、総一郎君たら。堂々とサボり?」
「総悟です。いやですねィ、旦那。休憩ですよ」
「ふーん。ね、ところで君の相方の副長さんはどうしたの」
ほら、いつもならこの辺で行くぞ、ってなるじゃん。
などと何気なく続けながらも銀時の目は冷静だ。
それが本題だろう、という内心を押し隠して、沖田はいつもどおり読めない表情で言う。
「殺しても死なねェ野郎ですがねィ。今日はタマ取れるかもしれやせん。なんせぶっ倒れやがりましたから」
一瞬だけ、空気が尖ったのがわからないほど沖田は鈍感ではない。
「なになに、副長さん、倒れたの」
懐手のまま、腹の辺りをかきながら一見してダルそうに銀時は言う。
「そうでさぁ、もういい加減俺に職を譲れってんだ。
あんだけ派手に倒れたってのにあの馬鹿ちっとも休もうとしないんでさァ。
年寄りは頑固でいけねェ。近藤さんが居ないんじゃ、あの馬鹿誰の言うこともきかねぇにきまってまさァ」
「大変だねェ。お宅らも」
心なしか、動きが急いている、とわかっていながら沖田は最後の嫌味を込めて呼び止める。
「旦那、どちらへ」
わかりきっている。
「お見舞い」
案の定、隠しもしやがらない相手に内心舌打をしながら、笑い顔は崩さない。
「間に合ってますってザキのヤローが言うと思いやすけど」
「何それ保護者?ジミーっていつからアイツのかーちゃん?」
「生まれてからって言うんじゃないですかィ」
「うわ、笑えねェー」



屯所の警備は本来厳重だが、自分にはあまり意味が無い。
忍び込むことも可能だが、正面きって通してもらえるならそのほうが早い。
だが、顔パスに近いのはいかがなものか、と恋人の頭痛を引き起こしそうな要素に少し同情した。
やらかしている人間の考えではないが。
「はいはいっと、失礼しまー…」
障子の影で、寄り添うように見える二つの影に銀時は一瞬、眉を寄せて、いつもの顔を作ると開け放つ。
「こんにちは〜貴方の銀さんですよ〜土方君」
起き上がっているなら深刻な容態じゃないだろう、ああびっくりした顔が可愛い、
とまず思ってにやにやしてみる。
瞬間、怒鳴ろうとしてくらくらしたのか、土方が頭を抑えた。
「旦那」
「あ、ジミー」
「山崎です。静かにしてくださいよ」
「了解、了解。で、副長さんはどーして起きてるわけ」
声は出せずとも、せめてとばかりキッと睨む表情にいつもの鋭さは無い。
あーあ、可愛い顔してまー。
頬がほんのり赤く、目元は熱で潤んでいる。
白い肌の透明度はむしろ上がっているかもしれない。
やつれるほどになお美し、て言葉は本当なんだね。
「何しにきた……」
「ちょっと早いけどいいじゃん。どうせ夜に会うんだし」
瞬間、土方の頬がぱっと赤くなる。
「な、テメ………」
「あ、可愛い。なに、銀さんと会いたいからお仕事頑張っちゃってるの」
「ちが……」
「旦那、副長具合悪いんですから、あんまり刺激しないでください。
あと、隊士の心情を刺激するんでそういう話は小声にして下さい」

障子越しに、聞き耳を立てているであろう塊に視線を送りつつ、
山崎は溜息を吐く。
「別に良いですけど、副長、隠すと余計変ですよ」
「うるせー、大体なんで屯所にこいつが侵入してんだよ!」
大声を出してくらくらしたのか、土方が頭をまた抑えた。
「ね、土方君」
「な、なんだよ……」
「弱ってると可愛いね」
「な………」
ぱくぱくと口を開閉しながら、土方は怒鳴ろうとしてやはり失敗した。
ちょいちょい、と銀時は手招きする。
「な、なんで………」
「いつでも来るのに」
「う……」
「どうして言ってくれないわけ。そんな具合悪いのに、今夜どうするつもりだったの」
急に、叱られた子どものように土方がしゅんとする。
「夜には治ると思った……」
まるで子どもの言い訳のようなそれが愛しい。
「はは、俺土方のそういうところ嫌いじゃないけどね」

固まる身体に、ゆっくりと銀時は近づく。
追い詰められた獲物のように、土方は身を竦ませた。
「ね、もう少しリラックスしたら?
張り詰めてばっかりじゃ、いつかぽっきりいっちゃうんだよ」
ふっと笑った銀時に、土方は何も言えなくなる。
「スゲェ心配」
そっと、土方の色の薄い耳元に銀時の唇が近づく。
「ね、ひじかた……」
囁こうとした瞬間。
限界だったのだろう。
土方は、音も無く倒れた。

予想していたかのような力強い腕に抱きとめられ、落下は勿論ありえなかったが。



弱った身体を柔らかな蒲団に横たえ、銀時は体温を測るための器具をそっと差し入れた。
ピピッと音がして、すぐに体温が表示されたが、やはり。
「高いね…よくあんだけ動ける」
「ええ、この人、ちっとも自分の身体のこと省みないんで」
言いながら、山崎の手で熱い額にそっとぬらした手拭がのせられた。
優しく髪をかきわけてやりながら、銀時はふと辺りを見渡す。
「なに、あの物凄い存在感を放つ籠盛りフルーツ」
床の間に置かれたのはドラマの中の病院でよく見る、パッと見、1万じゃきかない代物。
「今日は本当は会食だったんですよ、土方さん」
山崎は淡々と話す。
「本来なら体調不良だってのは極秘なんですけど」
ほら、副長は立場的にね、と言いながら山崎はなにやら忌々しげに唇を歪めた。
「納得してくれない相手で。夜なら局長が戻られるんですけど、そもそも局長じゃイヤだって言うんで」
組織のナンバー1が2の代わりにならないなんて道理として可笑しいだろうに。
「……どういう相手よ」
「そういう相手です」
厳かに山崎は答える。
「で、実は体調不良なんですって言ったらわざわざお見舞いに来やがったんです。
で、ふらふらで顔が赤くてぼんやりした副長が無理してお出迎えしちゃって」
「ほんとうにもうしわけない、ってほぼ平仮名の発音で喋ってしょんぼりするんですもん、副長」
当然、目は哀しんでいるかのように潤んでいたのだろう(あくまで熱のせいで)。
「………」
「相手もおろおろしちゃって早く良くなってね、みたいな感じで、
豪華なフルーツおいてどさくさで肩とか髪とか撫でさすって帰られました。はははは」
「旦那、体温計握りつぶさんでくださいよ。破片が散ったら土方さんが危ない」
銀時は引き攣った顔のまま、一応体温計を床に置いた。
「塩撒いときましたよ、勿論」
「聞くんじゃなかった……」
「ここじゃ日常茶飯事です」

微妙な間の後。

うっすら、土方の目が開く。
「んー……」
「あ、大丈夫?」
「ん……あつい」
「あ、起きられるうちに服かえたほうがいいんじゃね?おまえ熱あるのに隊服とかほんとに真面目な」
「しごと、あるから…」
あまり頭が働いていないのか、脈略の無いしゃべりかたの土方に構わず、山崎が気遣う声を出す。
「はいはい、旦那、副長着替えますから」
瞬時に空気が凍った。
「出て行け、ってこと?」
「当たり前ですよ。こういうときは隊士は遠慮して退出します」
「…なんで」
「土方さんですから」
「………アアソウ」
ぼりぼりと頭をかきながら銀時が言う。
「ってか別にいいだろ。俺らもうなんども裸を見せ合った仲…」
「ッ、はずかしいこというんじゃねェ!!」
無理矢理起き上がった土方が銀時の首筋をホールドするが、弱って力が入っていないせいで
しがみつかれているようにしか感じられない。
「ていうか、違うって!サウナとかでって意味でさ。おまえ自分でバラしてるって。
ぐぇ、わ、ごめんって。でもほんとのこと、ぐ、」
「おまえ…な、な…」
どんどん自分から関係を暴露していることに普段は聡い土方は思い至らず羞恥で震える。
「あー、土方、これなんかいいかも。お前可愛いし、ね、そのまま銀時いかないで、とか言ってみ」
どうせバレてるんだ、と調子に乗った銀時に遊ばれて土方は真っ赤になった。
「はじしらずがァァァ!!!」
「えー…その恥知らずが好きなくせにィ」
「ばか、ばかやろ!!」
殆ど泣きそうになりながら土方は繰り返す。
「……馬の足がそこまで迫ってるみたいなんで、俺が退出します……」
人の恋路を、ってか、上手いねジミー。
などと考えながら、銀時はしっしと虫を払う仕草で追いやる。
「着替えは置いときます。旦那、ウチの面子を舐めないでくださいね……」
恐ろしい言葉が聞こえたが、聞かなかったフリで銀時は土方を落ち着かせる。

「はいはい、どうどう」
フーッ、と猫の子のように威嚇する土方に着替えようね、と言い、
流石に病人に手を出すほど外道ではない(つもりの)銀時は土方の服を優しく脱がせ、
寝巻きに着替えさせてやった。
土方も疲弊した身体で怒鳴って疲れたのか、
人の目(というか山崎の目)が無いのでか、何だかんだで素直にされるがままになった。
「わりぃな…」
「いえいえ」
にっこり笑ってやると、二人きりの時は結構素直な土方は結局、照れたようにはにかむ。
天下の真選組副長様だって弱っているときは大人しいのだろう。

あー…今度これやろ。
エッチした後のお着替え手伝ってやるの。
なんかされるがままの土方ってのも可愛いし、いちゃいちゃしてる感あるよね。

などと銀時が考えていることは勿論知らない。



それからかなりの間、ゆるい眠りの中にいたが。
「………あつい」
土方が目を開けて静かに零す。
「あ、目ェ覚めた?」
「よろずや」
「そこは銀時って呼んでよ。何か飲むか」
そっと頬を撫でてやると素直にその手に懐いて土方は銀時を見つめた。
「なんかつめたいもん」
「あー…どうだろ、いいのかな冷やしても」
「じゃ、あれ……」
指差したのは籠盛りのフルーツ。
「そんな変質者が持ってきたもん喰っちゃ…」
「やまざき」
「はいよ」
障子の向こうで静かに返答があった。
てか怖ッ!
聞き耳、立ててたとかじゃねェよな?
偶然にしては、間が良すぎなんだけど。
「はいりますね。ポカリ持ってきました。あと、一応、タオルと水入れた洗面器と新しい着替えも」
背後で手伝いの隊士が、厳かな面持ちで水の張った洗面器を持って控えている。
寝巻き姿の土方に視線がいくたび、うろうろと落ち着きがなくなるのがなんだかなぁ、という感じだが。
「…お前ほんと気が利くな。でさ、あんまり冷えてない飲み物が良いと思うんだけど」
「ええ、これ常温です。あ、それ切ってきますね。何が良いですか」
「めろん」
「わかりました。メロンですね」
「…じゃ俺のも」
「はいはい。毒見してください。て言っても検査済みですよ、それ」
「…なるほど」

山崎とお供が退出して、また部屋は二人きりになった。
背中に片腕をまわし、もう片方の手で後頭部を支えながら慎重に起こす。
「飲める?」
「ん……」
ゆっくりとコップを傾けて嚥下していく様子を眺めながら、
銀時は少し微笑ましい気持ちになる。
子どもの世話をしているようで。
弱ってる土方ってのは、可愛いもんだな…
勿論いつも可愛いけれど。

しばらく見つめあっていたら。
失礼します、と律儀に声が聞こえて仕方なしに銀時は障子を開けた。
「メロン、切ってきました」
土方はソレを受け取ると、満面の笑みを浮かべた。
不覚にも、可愛い…と見惚れて反応が遅れた銀時は。
「旦那もどうぞ」
「そこ置いといて。土方、食べさせてあげようか、……ていうか何やってんのォォォ!!!」
目を離した隙に。
どこからか取り出されたマヨネーズが、オレンジ色のゴージャスな果肉に惜しげもなくかけられている。
「マヨめろん」
ほとんど幼児の無邪気さでしでかした土方は可愛い、が、やってることは奇行以外の何ものでもない。
「はいはい、この間ドラマでやってましたよね」
山崎は気色悪い物体にも全然めげずに、持ってきていたスプーンを渡してやっている。
「お前どんだけ甘やかすの、弱った胃に駄目だよ。そもそも高級食材を冒涜してるよ」
「いいじゃないですか、弱ってるときは」
土方は熱があがって我慢がきかなくなったのか、メロンを取り上げられて機嫌を急降下させた。
酷く潤んだ目で睨まれて固まる。
「まよめろん……」
うー、と低く唸られてしまえば降参するしかない。
「わかった、わかった!とりあえずあれだ。それは今度にしような?熱がある時にマヨネーズはやっぱ駄目だよ。
ていうかよく喰おうと思えるな!」
うー…と獣が威嚇するように唸ったままの土方に銀時は焦る。
「な、土方、銀さん特製のおかゆにしよう!な?」
必死の形相の銀時に、ふと、土方は笑う。
「ふふ……なんでそんなに、ふ、くくく……おまえかわいい」
「や、可愛いのはおまえ、っていうか……」
ぐりぐりと、土方が頭を肩に押し付けてくる。
「かわいい。もう、おまえをたべてやる」
「ちょ、ええええええ!!!!おまえそういうキャラだっけ?!」
「いつも、おまえいってんだろぉ、おれのこと、ぜんぶたべてやるって」
あたふたする銀時に引き攣った山崎は青褪める。
「旦那………」
「ちょ、なにその顔!!」
「土方さんに…」
「違うって!!!なにその目!言葉のあやだってば!!!」
「いつもぜんぶ、すっごくなめるじゃねーか、おれやだっていってんのに」
「ちょ!!!!」
「旦那…アンタ本物の変態だったんですね…」
「んだとォォォ!!!!」

「…なめたい」
ぽつりと、また爆弾が落とされた。
「はいッ?!」
「副長!駄目ですよこんなの!!!病気になりますって!!!」
「こんなのってなんだァァァァ!!!」

「つめたいのな、バニラじゃなくて、なんかさっぱりしたやつ」
土方はそう言うと、小さく息を吐く。
「あ、」
「アイスとかのこと?」
訊ねれば、こくりと頷く。
両者、安堵で胸をなでおろした瞬間。

「副長、入っていいすか」
どうしてこう、この組織の連中は俺の邪魔をするのか、と銀時が頭の片隅で思う。
「はらだ?いいぜ」
駄目、と言う間も無いタイミングで障子が開けられた。
「副長、どれがいいすか?」
ビニール袋に何やら大量の。
「苺」
「1個で良いんすか?」
「ん」
「スプーンどうぞ」
「わりぃ」
小さな子とのやりとりのようにごく自然に、和やかな空気が流れ。
「ほれ、山崎。旦那も食いますか?」
人好きのする顔でハゲがアイスを差し出してくる。
「あー…アイス買ってきたの」
「さっき出る時に副長にほしいもの無いか聞いたんで」
じゃ、お大事に。
顔に似合わず爽やかな笑顔でハゲは出て行った。
「ジミー、アイツって結構良い奴だよね…」
空気を読んでさっと引き上げるところも良い。
非番に二人で映画に行く仲だと知ったときのことはこの際だ、隅においておくことにしよう。
「山崎です。じゃ、お任せしますよ」
馬の足が迫っているのがわかるのか、今度はあっさりと山崎は出て行く。
…内心はどうだか不明だとしても。



ぴりぴりとめくるとアイスが顔を出す。
「美味しい?」
「つめたくてきもちいい……」
「うーん、味覚はまだ無いか」
よしよし、と軽く髪を撫でてやりながら冷や汗をかいたな、と銀時は思った。
スプーンで大人しくアイスをすくいながら土方はぼうっとしている。
「腹冷えない?」
「きもちいい…」
「うーん、ますます会話が成り立たなくなってきたな…」

「ふろ、はいりたい……」
「だめだよ、熱あるのに」
「あついし、あせかいてきもちわるい、はいる」
「……わかった、身体拭いてやる」
心得たように山崎が用意していた洗面器とタオル、新しい着替えに銀時が苦笑する。
自分こそが土方の犬だという主張だろうか。
「ちょっとひんやりするよ」
「ん」
そっと身体中を拭いてやりながら、何気なく、色づいた胸の飾りに触れると土方の声が
少し、甘くかすれた。
「冷たかった?」
「あ……」
照れたように、土方は黙って首を振る。
いけないことをしている気になりながら、理性を総動員して銀時は黙々と土方の白い肌を拭いて、
服を着替えるのを手伝ってやった。
仕上げ、と称して頬を軽く手で包み、ちゅっと額に口付けると土方がやわらかく笑う。
「ぎんとき、」
「ん?」
「きもちいい……」
「はい?!」
「おまえの手、つめたくて、きもちいい……」
「あ、ソウネ。手ね」
照れたような声で、銀時は土方の身体をゆっくりとまた、横たえてやった。
しばらく、じっと宙を見ていた土方は。
何か言いたげに、唇を少し震わせ。
視線をきょろきょろと彷徨わせてから。
「…あとちょっとだけここにいろ」
「うん」
ようやっと言った後、やっぱり恥ずかしくなったのか、ぱっと頬を染めた。
「………いてくれ」
そう、ぽつりと言うと、くるっと背を向けてぎゅっと目を閉じる。
「…うん」
銀時はとても土方には見せられないような緩んだ顔で、可愛いおねだりをきいた。


ふっと目覚めたときにはだるさは消えていた。
身体の芯が覚束無いような、浮遊感も薄れている。

視線を泳がせれば、真横では銀髪の男が、胡坐をかいたまま器用に眠っている。
ねだったとおり、ずっと傍に居てくれたのか。
ゆっくり、衣擦れの音をさせながら土方は半身を起こした。
近づいてみても目覚める気配は無い。
気配に聡い男だ。
よっぽど疲れているのだろう。
誰かに、傍に居てもらうことが落ち着くだなんて。
らしくねェ、と自分自身にくすりと僅かに笑いを零した後。
「…銀時」
ありがとよ。
そっと、唇を動かし、空気にだけ告げて。
銀時のいつもはよく動く口が、眠気でかほころんでいるのがなんだか可愛くて。
キスがしたかったが、うつしてはいけない。
そう考える自分の思考にまた少し照れて。
そっと銀色の髪を撫で、土方は滅多に見せない素直さで微笑んだ。



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