猫になった日
「あー天人になっちまった」
起き抜けに土方十四郎は己の姿を鏡で確認してそう言った。
同刻、副長の麗しいご尊顔を拝むべく、爽やかに早起きした山崎はご機嫌で朝の挨拶をするために副長室へ向かう。
副長、起きてるかな〜
「おはようございます、副長」
「おい、ザキ」
「はいよ…ってえええェ!!!」
「うるっせーな。耳元で叫ぶな!」
とりあえず一発殴られた。
猫パンチだ…
「ふ、ふくちょ、それ、みみ、ねこみみ…」
ちょっと鼻が痛い。いや、もう鼻血が出そうだ…
「おい殴られたぐれェで鼻血出すな!」
何だかんだで優しい土方さんはちょっと心配そうに俺を覗き込んでくる。
「あ、いや、違います…あの、耳ぴこぴこさせないで…」
…可愛いから。凄く可愛いから!
「慣れてねェんだ制御できっか」
副長…いや猫耳土方さんは鏡を見て「面白ェ」とか言って、可愛くぴこぴこ動く耳で遊んでいる。
どうしよう。この人。
「……どーせならこれで潜入捜査とかどーだ?手配しろ」
「えぇ!そんな…!副長、ご自分のエロ…ヤバさわかってます?!」
「問題はシッポだよなー服がなぁ…」
とかのんびり言いながら、しっぽが持ち上がるとまくれ上がる夜着の裾に眩暈。
もう失神しそうだ。
「……なんつー頭してんでィ」
ハッとして避けると俺の居た場所に鋭い一撃。
悪魔の申し子沖田隊長が現れ、副長に見惚れていた俺はさり気なーく沈められかける。
ホント怖い人だ。
「んだ、お前の仕業じゃねェのか」
「濡れ衣はよしてくだせェ。アンタにこんなことしそうなのは一人でしょ」
ふたりがモメているとドタドタと足音がして
「ひっじかたくぅん!!!」
屯所の警備を相変わらずものともしない万事屋の旦那が現れた。
「うわ、可愛い!!!」
旦那は耳に触れてうっとりしている。
「お前か、妙なことしやがって」
呆れた様に土方さんは言うと
「何時治るんだ」
当然のように旦那を犯人と断定した。
「今日一日経てば。知り合いからもらってさ。この前使ってみたら生えてきたからおすそ分け」
「いらねぇよ。しっかしお前も耳生やしたのかよ。そういう面白いときは呼べよな」
「いや、毒見みたいなもんだから。土方君に使って何かあったら困るからと思ってさ」
「んだ、最初っから俺に使う腹づもりだったのかよ」
呆れたようにそう言うと土方さんはちょっと笑った。
「今日は猫の日らしいな」
「よく知ってるね」
「近藤さんが言ってた。お妙さんの店、今日は猫耳の日らしいぜ」
「あー、拝む前にぼっこぼこにされるんだろうな…偽の猫耳に」
旦那はちょっと引きつった笑いをした。
「まぁ、俺はいいモン見れて満足だけど」
と言いつつちょっと残念そうなのは土方さんが全然動揺していないからだと思う。
沖田隊長もつまらなそうだ。
俺としてはこんな土方さんが見られるだけで僥倖だけど。
「おい、どうせなら飯食ってけ」
土方さんは旦那に告げると着替える為に私室に向かった。
いつもの癖で着替えを手伝う為に着いていこうとして
「…俺が行くから」
旦那に物凄い力で肩を掴まれた。
「…ハイ」
物凄く怖い顔だった。
「…沖田隊長」
「なんでィ」
「ああいうの、何て言うんでしたっけ」
「そりゃ、お前…」
バカップル、だろィ。
忌々しげに隊長は言い捨てた。
※2008年のにゃんにゃんにゃんの日(二月二十二日)にちなんで書いたものです。
猫になった日・リターン!
去年、銀時のヤローのせいで俺の頭から猫の耳が生えた。
なら今年は。
「ザキぃ、車出せ」
行く先は決まってる。
歌舞伎町のスナックの前で二人の子ども。
運が良い。
「おう、お前ら」
呼び止めると子ども達は目を見開く。
「おう、トッシー!元気かヨ」
「ああ、オマエの家の駄目人間はどうしてる?」
「昨日飲んで帰ってから部屋から出てこないんですよ」
「そうか」
じゃあ俺の勘は大当たり。
「お前ら、これ何かわかるか?」
ひらりと二枚のチケットをひらめかせる。
「大江戸ワンダーランドのチケット!」
「そう、一日フリーパス。やるから今日行って来い。ザキが送る」
「マジでか?お前良い奴ネ!」
「良いんですか?土方さん」
「ああ、そのかわりオマエんちの雇用主借りるぜ」
「ええ、どうぞどうぞ」
「存分に肉体労働させるが良いネ」
あっさり売られた哀れな万事屋の主人に内心笑う。
たくましい子ども達で何より。
「昼と夕飯代もやるから、メガネ、オマエが管理しろな」
「はい」
チャイナ娘じゃ心配だ。
ところで、肉体労働って、意味わかってんのか?
そっちも心配だ。
ま、いいか。
気を取り直して。
さて。
哀れな生贄で遊ぶとしようか。
朝起きたら耳が生えていた。
寝ぼけたのかなと思ったけれど、やっぱり現実だった。
引っ張ったら、痛い。
「飲みすぎたかな…」
きいたことねェよ。飲みすぎると耳が生えるのか?
と、呼び鈴鳴りやがった。
バンバンとうるさく玄関叩かれるが無視だ無視。
こんなナリでみんなの銀さんが外に出られるかってーの!!!
しばらくしたら静かになった。
諦めたか?
依頼人だとしても今日は外なんか出られねーし。
こんなときに来る奴なんかどーせロクなもんじゃねーし。
しばらくしたらがらりと玄関が開いた。
開いた?
「ちょ、何、泥棒?」
ウチに金目のモンなんかねーよ!
気配が近づく。
「おはようさん」
「え……」
着流し姿の土方が笑顔で部屋にズカズカ上がりこんで来る。
「な、ちょ、警察が不法侵入していいのかよ!」
「恋人の家に上がりこんだのを不法侵入たぁ、冷てェじゃねーか銀時」
ちょ、ええええ!普段はんなこと言わねーだろお前!
にこにこ、いや、にやりと笑うと土方は俺の前に立つ。
「耳」
「げ……」
「やっぱり猫の耳が生えたな」
心底嬉しそうに土方は笑う。
逃げようとしたが土方はすばやく俺の尻尾を踏んだ。
「みぎゃ!!」
尻尾の痛みでうまく動けない俺は座り込んだまま涙目で土方を見上げる。
「おーおー、猫そのものだなァ…」
土方は鼻歌を歌いながら俺の両手を手早く手錠で拘束する。
「ちょ、いつからそんなサドな子になったの?銀さん認めません!認めませんよォォ!!!」
喚くと、ぷしゅ、と鼻先に何かを吹き付けられた。
途端、がくんと身体から力が抜ける。
「な、なにかけたんだよ…」
「鎖も使うか…」
ちょ、ええええ!!!
てきぱきと土方は俺の首に首輪をつけると鎖の先を業務机に縛りつけ、強度を確かめるように引く。
「あ…怖い……にゃー」
って何鳴いてんの俺ェェ!!
「へえ…可愛い猫だな、ぎ・ん・と・き」
「に…にゃ〜」
まずい。
この顔はよくない。
「今日を待ってたんだぜ」
「そ、それは……」
この間のことをお怒りなんでございますか…
「テメェが人の身体に散々イタズラした挙句、尻尾掴んで無茶くちゃしやがったんだよなァ?ぎんとき」
「や…それはさ、土方君があんまり色っぽくて可愛いから…」
「テメェも可愛いぜ、今」
「いや、銀さんはどっちかってーとにゃんにゃん言わせるほうだから、可愛いっていうのはさ、ほら」
じりじり距離をつめられる。
「ほぉら?さっきテメェに吹きかけたコレ、なんだと思う?」
「え…」
「マタタビ」
目の前でゆらゆら揺らされる小瓶。
どうりで。
「………はい、あの、さっきから発情してるみたいです…」
股間の愚息が。
「猫にマタタビたぁ、マジか」
おかしそうに笑いながら土方君は怪しげな小瓶を見つめる。
「ザキの配合は完璧だな」
あのジミーがァァア!!!
後でぜってぇーシメる!
「おい、今はテメェの身を案じたほうが良いんじゃねぇかァ?」
「…子どもら帰って」
「今日一日大江戸ワンダーランド」
「……用意の良いことで」
そうだった。
可愛いツラしてコイツは真選組の頭脳。
この程度のことは朝飯前だった。
しかもジミーが噛んでるなら子ども達の応援は望めない。
「……土方君」
「ん?」
「銀さんいま、すっごく興奮してるんですよ」
「マタタビだしな」
「この鎖と手錠を、出来れば外していただきたいんですが」
「なんで」
「や、だから」
「なんで俺がむざむざ生贄にならなきゃならねェんだ?」
「…や、恋人じゃん」
「そうだったか?」
「さっき自分でそう言っただろうがァァア!!!」
「初耳だ」
「おいおいおい!俺たちラブラブの恋人でしょうが!」
「そうか」
「へ……」
「恋人なんだな、俺たち」
え?
にこにこ笑った土方は俺の首に腕を巻きつけると首筋にすりすりと滑らかな頬を擦り付ける。
「ちょ、ひじかた…」
と、土方は両手で俺の頬を捉える。
「やあっと、認めたな」
「え……ん、ぐぅ」
ちゅうっと唇に吸い付かれて固まる。が、構わず土方は何度もキスを繰り返す。
「ん、ん、んぅ」
あ、あ、ちょ、気持いいんですけどォォ!!
「お前、今まで俺にんなこと言ったことなかっただろ?」
「いや、んな………あ」
あ。
そういえば。
「俺は、ずうっと傷ついてたんだぜ、ぎんとき」
物凄く淫靡な顔で土方は唇を舌でなぞってくる。
柔らかくてあったかい。
傷ついてたとか、超可愛い。
ごめんね。
ほんとごめんなさい。
抱きしめたい。
どんだけ純情なんだ。
いや、今この状態は純情とは遠いけど。
でもコイツ身体は淫乱ちゃんだし。
いや、それが良いんだよ。
この子は。
男の理想だよね。
心は純情、身体は淫乱とかマジ最高。
いや、ていうか。
ぞくぞくしてはっきりいってヤバイ。
どのくらいヤバイってマジヤバイ。
いやいやいや。
「あの、もう銀時ジュニアが泣きそうなんで、あの…」
可愛く煽るのやめて、いや、もっとして。じゃなくて!!!
「コレ外してくれない?」
触れないんですよ。
せっかくお互い恋人って断言したのに。
「だぁめだっつーの」
ふっと息を吹きかけられて身震いする。
ヤバイ。
「…拷問?」
「ハァ?拷問なんてのはもっと凄いぜ」
「いや、知ってますよ…」
つうっと布越しに股間を指先で撫でられて、もうはっきり言うと染み出してきている。
「おーおー、堪え性がねー下半身だなァ」
「いや、ちょ、当たり前でしょうが!!!」
「んー?」
じーとファスナーがおろされる音がして、股間が外気に晒される。
「あ、あの…」
あんまりまじまじと見ないでほしいんだけど…
「まだ半勃ちだなァ」
「ひじかたぁ…」
「いつもはもっと大きいもんなぁ、お前」
「どこに話しかけてんの!!」
「お前の息子サン」
なー、とか言いながら土方は手で性器をゆるゆると動かしだす。
「元気ないのかぁ?」
「や、もう元気一杯だから…」
「お前はもっと凄いもんなぁ?ご主人がお前をバカにしてんぞ?ほぉら、根性見せてやれや」
「ちょ、ちょっとォォォ!!!」
股間に話しかけるシュールなプレイをしながら土方の手技でむくむくと立派に立ち上がる息子に
内心涙が出てきた。
まずい。
このままじゃ一方的にイかされてしまう!!!
「あ、おおきい」
ぐふっ!!!
「わかっててやってんなァァ?!」
この性悪が!
「わかってるのに勃つテメェが悪い」
「……ごもっともでございます」
くすりと笑うと土方は少し後ろに下がる。
上体を倒してもおそらく届かない距離まで下がると、はらりと片袖を抜くと、白い肌を露にする。
ま、眩しい…
見惚れる俺に構わず、歌いだしそうにご機嫌な土方はノリノリで自分の指先を胸に這わす。
白い指先が乳首を捉え、何度も引っ張り、くにくに潰されていく。
「ん……」
悩ましげな声と共にピンクの乳首が卑猥な色に染まって…
さ、さわりてェェ!!
舐めてェ!!!
いつもは舐めてるのに!
ちょ、乳首でオナニーとか何処で覚えてきたの?
そんなん銀さん認めませんよォォ!!!
「それ以上淫乱になってどうすんの?ひじかたくん!!!」
「んぅ……」
「ちょ、ホント待って!銀さんの銀さんが爆発するから!!!パーンてなる!」
必死な俺を無視して、土方の紅い舌がぺろりと唇をなぞる。
卑猥だ…
くすくす笑いながら土方は着流しを着ると俺のほうに近寄る。
顔を寄せられ、唇をまたぺろぺろ舐められて俺は固まる。
「なぁ、俺のこと好きか?」
「う……」
「好きか?」
土方が俺に問いかける。
はっきり言って股間が暴走しているのでもう近寄られるとくらくらだ。
なんかいい匂いするし。
が、土方の眼が思うより真剣だったので俺は固まる。
ああ。
そうか。
「…好き、だ」
こんな回りくどい方法で俺を確かめた可愛い恋人の為に。
しっかりと目を見て言った。
「ん…俺も」
好きだ。
そう吐息だけで囁いた土方は、俺の肩にそっと手を置くともう一度俺の唇に吸い付き悩ましげな溜息をこぼした。
「もう勘弁してやる」
ちょっとイタズラっぽく笑うと土方は俺の手錠と首輪を外す。
「いた…」
俺の手をすりすりとマッサージしながら土方は少し痛そうに眼を細めた。
コイツは本当に甘いと思う。
可愛いけど。
こんくらい、俺は全然平気だ。
でもせっかくだし、俺は心底悪い大人なので精一杯痛そうに振舞う。
案の定すまなそうに土方が顔を歪める。
ああもう可愛い奴だよ、お前は。
つけ込まれる要素あり過ぎ。
これじゃ心配だよ。
お前よくない虫に狙われまくってるし。
やっぱここいらでひとつしっかりマーキングしとかないとな。うん。
「ね…発情してるんだよ、銀さん」
とっておきの低音で囁くと土方がぶるりと身を震わせた。
「ん…」
今なら多分凄いことさせてくれるんだろーなーとか思いながら、土方をゆっくりと押し倒す。
口付けながら舌を入れると土方が少し鼻にかかった甘ったるい声で啼く。
「ざらざら、してんな…」
「あー、猫舌だからね…」
気に入った?
聞くとうっすら顔を紅くしながら土方は頷く。
ああもうチクショウ!ホントに可愛い。
胸元に顔を埋めて、目的のモノを舌で探す。
びくんと震える土方を押さえつけながら何度も何度も舐め、舌先で押しつぶす。
「あ、あ、あぅ……」
俺の頭を抱え込むみたいにしながら土方は可愛い声で何度も首を振って応える。
ざらざらした感触がたまらないんだろう、何時もにもまして感じているのが判る。
どうしてコイツはこんなにエロくて可愛いんだろ。
くたんと力が抜けた身体を俺に預けた土方に俺は内心勝利を確信する。
その後土方は完全に俺に主導権を明け渡してくれて、柔らかい身体の奥で何度も何度も俺を受け入れてくれた。
散々にして結局、イイ思いをしてるのは俺なのに、最後には土方は満足そうな顔で俺に抱きつくと眠りにおちた。
額にかかる髪をそっとよけると土方の幼い寝顔があらわになる。
すやすやと音がしそうに柔らかい眠りだ。
俺なんかの隣でコイツはこんなに幸せそうに眠る。
本当はずっと前からそうだったのに。
認めるのが怖かった。
コイツはいつか俺なんか捨ててどっか行っちまうんじゃねぇかっていつもどっかで怯えてた。
認めたらもう後戻りできないって思ってたんだ。
ごめんな。
もうこれからはお前を不安にさせねーから。
もうウザがられるくれェすきだって言う。
愛してるって死ぬほど言う。
こんな可愛い恋人持って、銀さん幸せだよ。
2009年のやっぱり2月22日にちなんで書いたお話です(笑)