山崎退の育児日記1
10月31日 晴れ
こんばんは。いつも副長のお傍に…監察山崎退です。
今日も我が天使は清く正しく愛らしい。
さて、今日は万聖節の前夜、すなわちハロウィンである。
天人がやってきてからは様々な風習が増えているが、そんなことはまぁ良い。
問題は我が天使のことである。
屯所では今日、ハロウィンにちなんで可愛いこひじちゃんに仮装をしてもらうことになった。
俺としては是非に、こひじちゃんには魔女っ子の格好をしてほしかったのだが、
各々が己の趣味主張を繰り広げ、最終的には血の争いにより敗北し、
こひじちゃんはねんねの時間になってしまった。
まぁ、大人副長は存在が小悪魔で、こひじちゃんは存在が天使なので、どちらも年中仮装しているようなものだ。
しかし今日のあのふわふわおばけを録画出来なかったことは、
出来なかったことはッ………!!!
つい…取り乱した。
山崎退、実に不覚であった。
明日よりいついかなるときもビデオカメラを持ち歩くことを己に課し、
決意も新たに任務に入る。
今日のこひじちゃんのねんねの相手は松平長官のため、
押しつぶされないように見張ることにする。
以上。
3時間前。
「黒猫ですよ!黒猫!!副長はもともと猫気質なんですから」
「小悪魔だろ!!大人副長の小悪魔ぶりを思い出せ!!」
「ミイラ男が良いんじゃないですかィ。顔も隠れるし。ヘタな格好させて外なんかだしたら誘拐されますからねェ」
「狼男はどうだ?男は皆狼だからな。狼の着ぐるみもカワイイぞぉ!なんせ手が猫の手みたいだからな!」
「局長、その場合狼になるのはこひじちゃんじゃないです」
争う一同に向かって、開いた戸から、
ふわふわふらふらと白い塊が近づいてきたので皆停止した。
静まり返ったのをどうとらえたのか、
白いシーツの塊はふわふわとやってきてぺこりとお辞儀をした。
「…とりっく、あ、とりーと」
お辞儀をした拍子にシーツが滑り落ちて
うぁ、と小さく声をあげたかわいいシーツおばけの素敵な中身は
ほっぺをピンクにして照れた。
「…ばれちゃった」
「お菓子でも何でもどうぞぉぉぉぉぉ!!!出来れば俺のすべてをもらって!!!」
「むしろ悪戯されたい!!副長!!いや、こひじちゃん!!!!」
ドタドタと足音がして廊下の戸が開け放たれ、
「トシィィィィ!!!松平のパパがたぁっくさんお菓子持って来たからなぁ!!!!」
などと叫んだ爺(松平片栗虎・警察機構のトップ)が可愛いシーツおばけを浚おうとし、
屯所はまた阿鼻叫喚に陥った。
追記
先日は我が天使の仮装を撮影し損ねるという
空前絶後の失態を犯したわけだが、
局長が奇跡的に機転を利かせて撮影をしていたので事なきを得た。
流石に普段から盗撮やストーキングに余念の無い人間は違う。
元々おおっぴらな撮影用ではないカメラのためかやや映像の質が低いのが難点だが、
被写体が今世紀最大級に極上なのでお釣りが来る。
上映会の前に大事に編集をしよう。
(局長の懐のカメラが普段何に対して使用されているかは聞きたくない)
文明の発達にはそれにしても目を見張る。
仕事の関係で盗撮用の彼是は多少詳しかったつもりだが、
腐れ爺のツラなんぞアップにしたくは無いからね。
あくまで証拠として、という観点でしかみていなかった。
まだまだ俺は若輩者だ。
本日、電気屋にて良い機器は無いかと物色中の俺の仕事人としての常人ならざるオーラを感じ取ったのか、
突如親切な女性が優れたカメラの存在を教授してくれた。
まったく世の中まだまだ捨てたものじゃない。
この機器が良い。
小型で軽く、耳に装着し、撮影者の視点で記録される。
これで俺はいついかなるときも、こひじちゃんの姿を、
俺の視点で!撮影することが出来る。
実に素晴らしい。
こひじちゃんは今お遊戯の最中だ。
原田さんが必死に覚えた○盛りダンスをこひじちゃんと披露している。
つるつるテカテカとこひじちゃんは嬉しそうだ。
遠まわしにハゲハゲと歌っている恐るべき歌だが、
原田さんはこひじちゃんになら何をされても笑っていられるようで何より。
実際こひじちゃんは原田さんのつるつるがお気に入りのようで抱っこされるたびに触っている。
しかし、こうしてみるとこひじちゃんはリズム感が良く、動きにキレがあり、美しい。
世俗の舞踏であっても実に優雅にこなす。
やはりこの浮世に戯れに降りて来た天使といった風情だ。うん。
天使みたい、いや、天使がこひじちゃんに似ているというべきなのだろう。
今日は大きな発見があった。
こひじちゃんは天使のようだと今まで皆が言ってきた。
だが、天使がこひじちゃんに似ているのだ。
この愛らしさ、この奇跡。
今日も俺は幸せです。
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