あかずきん



「誓って痛い事も怖いこともしないよ」
狼は赤頭巾の警戒を緩めようと思ってもいないことをいう。
いや、できればしてやりたいけれど無理なことを。

「でもせんせい」
赤頭巾は真っ直ぐに狼を見つめる。
「酷いことはするんだろ」
今までだっていっぱいしたし。
土方は大きな眼を潤ませながら精一杯俺を睨みつけてそういった。
どうしよう。
土方の言う「ひどいこと」は、
俺がじゃれあうふりで頬にキスして抱きしめたり、はずかしいって真っ赤になって言ってるのに何度も愛してるって囁いたり、女の子にすごくモテることを大袈裟に羨んでみたりすることだね。
どうしよう。
抱きしめて思い切り可愛がって何でもしてあげたい。
なんでそんな可愛いの。
そういう思いと、
裸にして一日中外に出さずにいて、君すら知らない身体の中まですべて可愛がりたいという、
最低で悪趣味で凶暴な情動を必死で押さえ込む。

ここまできたのに。
可愛い可愛い赤頭巾に狼の牙を見せるのはまだ早い。
もっと近くに来てからじゃなきゃ。
もっともっと近くに。
赤頭巾の柔らかい身体に牙が食い込んで逃げられなくなるくらい近づいてからじゃなけりゃ。

「先生が土方にひどいことすると思うの」
傷つくよ、と情けない作り声で言うと途端に土方の空気がゆれる。
背を向けると、シャツの裾を引くおずおずとした指先。
振り返ると、小さく首を振る可愛い顔が見える。

「………ごめんなさい」

消え入りそうな声でそれだけ言うと少しも悪くない可愛い赤頭巾は泣きそうになる。
「せんせい、俺が馬鹿なガキだって思ってるでしょ」
「思ってないよ」
悪い大人に騙されている可愛い子どもだと思ってる。

ゆるしてくれなくていいから、これだけは覚えていてくれ。
いつだって俺は君の為に全てを捨て去る覚悟が出来ている。
誰かに知られたら俺に脅されたって言うんだよ。
俺なんか嫌いだって言うんだ。
俺なんか大嫌いで怖くて仕方なかったって。
白くて清潔で可愛い君なら誰だって信じて守ってくれるよ。
君は可愛い赤頭巾で、狼だけが撃ち殺されるんだ。
ね?

目の前の土方は白い肌できれいな目をして泣きそうで。
そんなずるいことばかり言って君を食べようって考えてるんだとは夢にも思わない。

赤頭巾ちゃん。
銃が手に入ったら俺を真っ先に撃ってしまえ。
可愛い君になら破滅させられても構わない。
だからおねがいだ。
もう少しお話をさせて。
君の声を聴くだけでしあわせになれる愚かな男に慈悲をくれ。

「ひじかた、きょう、先生と一緒に帰ろう」
そう言うと土方は少し安心したみたいに頷く。
大丈夫。痛いことも怖いこともしない。
ひどいこともしない。
こっそり手をにぎって帰ろう。

大人になんてそんなに急いでならなくていいんだよ。
君は大きくなったら俺から逃げちまうだろ。
もう少しだけでいいから一緒に遊んで。

小さくて可愛い唇にキスさせて。
おねがい。




back